幻の「杉田梅」の魅力を伝える市原さんの梅しごと【その③】

本来、「梅しごと」とは梅干しや梅酒を作ることを指す言葉だが、料理 研究家・市原由貴子さんの取り組みはスケールが大きい。一度は消滅したかに思われた日本古来の梅の再生と普及に力を入れているのだ。そのユニークな活動を見せていただいた。

再生した杉田梅の魅力を20年かけて広める

梅干しづくり体験講座の様子。2020年からはコロナ禍の影響で人が集まる催しができていないのが残念

料理研究家である市原さんにとって、食品としての梅も魅力的だった。「さっぱりとしておいしいだけでなく、実の熟し具合や漬ける方法によって色が変わるのもおもしろいです。疲労回復や整腸、抗酸化の効果も見逃せません」。 そんな梅の力をぜひ日々の暮らしに取り入れてほしいと、20年ほど前、杉田梅について学ぶ「梅塾」を立ち上げた。現在のメンバーは50人ほど。塾では、実の収穫や加工をはじめ、枝の剪定や施肥などの手入れ、梅の加工食品をいただくパーティー、梅を題材にした絵画や俳句など、さまざまな切り口で楽しんできた。

丹精した杉田梅の梅林に佇む市原さん。「豊作の年も凶作の年もあるので、自然の変化に敏感になりました」

ほかにも市原さんは近所の小学校に出前授業に赴いたり、児童を梅の木坂ハウスに招いたりして、地道に歴史や魅力を伝えてきた。自身が主宰する料理教室「横浜 旬・菜・果」でも梅干しづくり体験の講座を開催。6年前から販売を始めた梅干しは、2020年に区民が選ぶ「磯子の名品」に認定された。地産地消を推進する地元スーパーや百貨店が取り扱うようになったほか、市庁舎のレストランでも杉田梅を使ったメニューを提供するように。25年前はほとんど知る人がいなかった杉田梅だが、少しずつ認知が広がってきた手応えを感じている。 「各家庭でもっともっと杉田梅を日々の生活に取り入れてほしい。梅にまつわるいろいろな楽しみを通じてこの街の歴史に触れてもらえたら」と市原さん。彼女の壮大な「梅しごと」はまだまだ続く。

梅干し以外にも梅の加工品を作っている。さわやかな風味のジャムは調味料としても重宝する
梅酢で色づけした梅塩。これで作ると塩むすびがごちそうに
ジンや味醂に漬けたビンがずらり
人気の梅干しは翌シーズンまでに売り切れるので、残念ながら二年ものは販売していない
この場所からご当地キャラ「ウメニー」も誕生した。地元小学生による原案(写真)を、ピカチュウのデザイナーがブラッシュアップ。杉田地区には、このキャラが描かれた自販機が存在する