【Since1989】野山の風景にしっくりとなじむ31年の思い出が詰まったログハウス

山梨県・Sさん

5~6年に一度の外壁塗装と湿気を除くのがログ維持のコツ

手前が増築した寝室。全体のトーンを合わせることで外壁もログとしっくりなじんでいる

静かな林の中に建つSさんのログハウスは、1989年に完成した別荘だ。外壁のログの傷みはまったく感じられない。31年が経ているとは思えないほど美しい状態を保っている。 「定期的なメンテナンスがログを保つコツ」と話すのは、このログハウスを建て、メンテナンスを担っているブレイスの丸山康人さん。海外では築100年を超えても健全なログハウスがあるが、丸山さんによると、それは適切な補修を施している結果だという。

プレイス代表、丸山康人さん。雑誌『ウッディライフ』でログハウスの魅力を知り、この道に進む。多くのハンドカットログハウスの建築、大規模プロジェクトの現場を経験したのちに独立。近年はリフォームやメンテナンスなどの需要に応える。

「メンテナンスをしないと、木は確実に朽ちてしまいます。木材表面の塗装が効力を失う前に再塗装することで、木材が傷まず長もちするんです。ログハウスの外壁は5~6年に一度が理想」と丸山さん。Sさん宅も竣工から5~6年に一度のペースで外壁に防虫・防腐の塗装を行ってきた。さらに2009年には、雨にさらされる外壁の表面を削って塗装するという大がかりな補修を行っている。

アウトリガーで2階を広く取ったため軒が深くなった。そのおかげでログの壁面を雨から守っている

構造もログの傷みを防ぐポイント。アウトリガーを設けているため、軒の出が約1m50㎝あり、雨から壁を守ってきた。さらに、湿気のある環境に置かないこともログの保持にかかわってくるという。「木は乾けば傷みが少ない。例えばウッドデッキが朽ちてしまう原因は、水分を含んだ落ち葉や雪がいつまでも残っているから。まめに掃き掃除をして、水分の残る状態にしないことが大切です」と丸山さんは語る。

利用日数は年平均100日。使うことが風通しの良さに

明るい光が降り注ぐ吹き抜けのリビング。2 階にはアウトリガーを利用した物置や本棚が並ぶ。「冬でも薪ストーブひとつで家全体があたたかい」とSさん

実は、室内の状態を保つのも同じで、湿気を除き換気するのがポイントだ。Sさんは年間平均100日ほどログハウスを利用しており、その分、換気状態もいい。「特別な手入れはまったくしていない」というSさんだが、清潔に保つよう心がけている。「ログの表面をふいたり掃除したりするのは、面倒なようですがそれもまた楽しい」と話す。

アーチカットを施したリビングの入口。キッチンから食卓へとスムーズに運べるように、ログをカウンターのように仕立てた

家族だけでなく、友人たちも訪れ、多いときには20人ほどが集まる。庭でバーベキューをしたり、散策したりして過ごすSさんのログハウスは、「森の家」と呼ばれてみんなに愛される存在だ。

2008年、傷んだウッドデッキを作り替えた。「一日中過ごすほどウッドデッキはお気に入り。このログハウスになくてはならないもの」とSさん

なかでもSさんのお気に入りは、林を望むウッドデッキだ。「朝いちばんに椅子とテーブルを持ち出して、朝ごはんを食べてコーヒーを飲む。デッキチェアに寝転んで本を読むのも気持ちいい。天気が良ければ一日中デッキで過ごしていますよ」とSさん。ログハウスは経年でどんどん味わいが増すとも感じている。「31年の家族の歴史、楽しい思い出を作ってくれたログハウスを、これからも大切に維持していきたいですね」。

【  Detail  】

≪増築した寝室≫

家族が増えて手狭になったため、リビングの隣に寝室を増築。リビングと色合いを合わせて落ち着いた雰囲気に仕上げている
増築した寝室の天井部分。太いログの梁の形に合わせて板をくりぬき、すき間なく板壁を張っている
キーウェイを施して接合したログと寝室の壁。ログ面に棚を取りつけて、こまごまとしたものが置けるように工夫
増築部とログのつなぎ目。ログの木口に「キーウェイ」という溝を彫り、そこに増築部の板壁を差し込んでいる。セトリングしても支障がない仕組みだ
増築部は独立基礎にして「床下を物置にしたい」というSさんの希望を実現。高床なので床下の風通しも良い

≪キッチン≫

竣工時のままのキッチン。木製の吊り戸棚、キッチン下の棚がログの色合いとなじむ。Sさんのこまめな掃除のおかげで傷みは見られない

≪セトリングの状況≫

上3点/階段や玄関の柱のボルト、天井と壁の間のすき間(色の違う板ですき間を目隠している)など各所に施してあるセトリング対策。30年が経過し、最終的に12~13cmほどログが沈んだ

≪ログ壁の状態≫

上2点/外壁は、2009年に木肌を削り強力な塗膜を形成する防虫・防腐塗料を施した。室内のログに加えて、浴室のむき出しのログも問題なし。Sさんのこまめな掃除と換気が、ログを傷みから守っているようだ

【DATE】 ●使用目的/別荘 ●工期/ 1989年4月~1989年11月 ●使用ログ材/ダグラスファー(φ約30cm) ●床面積/ 1F 67.80㎡(20.50坪)、2F 32.76 ㎡(10.50 坪)、延床面積 100.56㎡(30.42 坪)

取材・文/上田里恵