山の恵みを楽しむ男【②】
伐採や間伐の山仕事に従事し、ログビルダー、ツリークライミングインストラクターとしての顔も持つ上田康美さん。飛騨の地で自然を相手に、木とともに生きる魅力を聞いた。
上田康美さん ツリークライミングクラブ「橙」代表
本場カナダでログを学び緻密なカット法を体得
上田さんは20代から山に入り伐採や間伐の仕事をしてきた。朝6時に出勤して帰宅は夜7時頃。冬はマイナス20℃以下になる。体力的にも厳しく、このまま続けて将来はどうなるのだろう、という思いもあった。そんなときに倉本聰氏のドラマを見て、ログハウスを知る。日本からカナダに渡った若者の奮闘記で、ログハウスの仕事を手伝うという話があった。「『ウッディライフ』という雑誌に、ドラマのロケ地でログハウスのスクールを開催し、参加者を募集するという企画を見つけたとたん、頭が真っ白になった」(上田さん)。この道に進むしかないと直感し見事合格。30歳のときだった。
カナダ・カムループスという街でのスクールは3回。1回目でほぼ学び終えた上田さんは2、3回目をインストラクターとして参加した。その後、冬は山仕事を休んでカナダに行くという生活が10年ほど続いた。現地で岐阜県林業短期大学(現・岐阜県立森林アカデミー)の学生を受け入れ、木や道具の扱い方を指導したこともある。 上田さんはこれまで10棟ほどのログハウスを手がけた。特徴は、サドルノッチの刻みが緻密であること。ログを組み合わせたときほとんどすき間がなく、セトリングによるメンテナンスはほぼ必要ないという。「見えない部分にこそ手をかける」のが流儀だ。
自然の息吹を全身で感じながら生活する上田さん。しかし「存分に楽しむのはまだこれから」と言う。山仕事を引退し、ツリークライミングや彫刻、カービングに明け暮れる。そんな、山と木の恵みにどっぷりとつかる生活を楽しみにしている。
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取材・文/上田里恵
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