山の恵みを楽しむ男【②】

伐採や間伐の山仕事に従事し、ログビルダー、ツリークライミングインストラクターとしての顔も持つ上田康美さん。飛騨の地で自然を相手に、木とともに生きる魅力を聞いた。

上田康美さん ツリークライミングクラブ「橙」代表

本場カナダでログを学び緻密なカット法を体得

上田さんは山仕事、ログハウス、ツリークライミングと、40 年間木と触れ合ってきた山のスペシャリスト

上田さんは20代から山に入り伐採や間伐の仕事をしてきた。朝6時に出勤して帰宅は夜7時頃。冬はマイナス20℃以下になる。体力的にも厳しく、このまま続けて将来はどうなるのだろう、という思いもあった。そんなときに倉本聰氏のドラマを見て、ログハウスを知る。日本からカナダに渡った若者の奮闘記で、ログハウスの仕事を手伝うという話があった。「『ウッディライフ』という雑誌に、ドラマのロケ地でログハウスのスクールを開催し、参加者を募集するという企画を見つけたとたん、頭が真っ白になった」(上田さん)。この道に進むしかないと直感し見事合格。30歳のときだった。

カナダのログハウススクール。岐阜県林業短期大学(現・岐阜県立森林アカデミー)の学生を受け入れ、林業や木の扱い方、加工の仕方を指導した

カナダ・カムループスという街でのスクールは3回。1回目でほぼ学び終えた上田さんは2、3回目をインストラクターとして参加した。その後、冬は山仕事を休んでカナダに行くという生活が10年ほど続いた。現地で岐阜県林業短期大学(現・岐阜県立森林アカデミー)の学生を受け入れ、木や道具の扱い方を指導したこともある。 上田さんはこれまで10棟ほどのログハウスを手がけた。特徴は、サドルノッチの刻みが緻密であること。ログを組み合わせたときほとんどすき間がなく、セトリングによるメンテナンスはほぼ必要ないという。「見えない部分にこそ手をかける」のが流儀だ。

40年ほど前に建てたログハウス第1号。上田さんが勤める会社の所有。標高1300mの場所にあり、御嶽山と乗鞍岳をのぞむ
上のログハウスの内観。カウンダ―にもログを組み上げた。経年変化で木の風合いが増している

自然の息吹を全身で感じながら生活する上田さん。しかし「存分に楽しむのはまだこれから」と言う。山仕事を引退し、ツリークライミングや彫刻、カービングに明け暮れる。そんな、山と木の恵みにどっぷりとつかる生活を楽しみにしている。

【  Others  】

長野県木曽町、開田高原にあるカフェ&レスト「はーと」。約20 年前に建てた、大きな三角の屋根が特徴のレストラン。ログにはベイマツを使用し、内部の床にはお客さまの出入りがあっても傷がつきにくいチークを入れた
左/妻壁の高窓から、室内にやさしい光が入り込む 右/エントランスのログエンドに刻まれたクマの彫刻。上田さんの建てるログハウスには、必ずこうした動物のモチーフがあしらわれている
左/ログハウスづくりのための道具。右端は、丸太に引っ掛けて位置を変える木回し 右/カービングに使うチェーンソー。ハンドルにウレタンを巻き振動を軽減
ログハウスづくりと並行し、30代半ばからはチェーンソーカービングも始めた。写真はウサギを削り出しているところ。器用さがものをいう
立ち上がるウマの高さは20cmほど。前足は人の指くらいの太さで、折れないように慎重に刃を入れて刻み上げた。動物などの小さな造形をいきいきと削り出すのが得意
「切っても切れない」というゲン担ぎで結婚式の贈り物として人気の「木のオノ」。枝つきのヒノキが手に入ったときにしか作れない貴重なカービングだ
40年山の仕事に携わっている上田さん。大木が倒れてきたりワイヤーが切れたりするなど危険と隣り合わせだ。チェーンソーは特に慎重に扱う

取材・文/上田里恵