大きな丸窓から湘南の海をのぞむ混構造3階建てのユニークログハウス

ログハウスといえば、普通はカナディアンな丸太小屋か北欧風のマシンカットのどちらか。しかし、そんなジャンルにとらわれず個性全開で建てられたものだってある。ここではそんなユニークなログハウスを紹介しよう。

神奈川県・T さん

設計/ K&K 建築設計、輸入/(株)JIN、施工/(株)岩崎建設工房、(株)JIN

奥行き26mもの躯体はRC造+ログの3階建て

アプローチを抜けると、中庭に辿り着く。ウッドデッキが張ってあるが、なんとその下は全体が池になっていて、丸い穴から泳ぐコイが見える

風光明媚な景観が多くあり、観光地としても名高い静岡県真鶴町。その美しい海を望む高台に、1棟のユニークな建物が建っている。 荒削りな丸太がダイナミックに積まれたログ壁を見るとまさしくカナディアンログハウスだが、1階部分はさわやかな白色のコンクリート造。ワイルドでありながらモダンでもある雰囲気は、ログハウスとしてほかに例がないだろう。 この家のオーナーは、Tさんご夫妻。20代から建築士として鉄骨造の建物や大型建築を設計してきたご主人は、いつか自分が家を建てるなら、自然が感じられるハンドカットログハウスにすると決めていたそうだ。そしていよいよ自宅を建てるとなったときに相談したのが、ログメーカーJINの小池さんだ。同氏とは20年ほど前に仕事で出会って以来の知人で、ハンドカットログハウスのエキスパートであることをよく知っていたので、話をしたのは「当然の流れだった」と言う。

設計士だったご主人が描いたログハウスのスケッチ。ハンドカットログハウスに和のテイストを取り入れ、モダンな雰囲気にしたかったそうだ

「50代までは環境がすぐ変わるものなので、家を建てたいとは思いませんでした。今ようやく家が持てる年齢になったのだと思います」とご主人。建築にあたっては自身が設計を行い、何枚もスケッチを描いてイメージをふくらませた。 「いかにもログという家にはしたくありませんでした。和のテイストを入れながら、なおかつモダンなデザインを目指しました」

左/丸太を積んだ躯体と白壁のコントラストが美しい外観 右/建物の海が見える側にはチェアが置かれていて、リゾートのよう

そして完成したのがこのログハウス。校倉造りをイメージしたという躯体は長さが26mもあり、ログ材が横に長くまっすぐのびる美しいラインをつくり出している。また、壁に設けられた4つの大きな丸い窓は、和モダンの雰囲気を強調。さらに白壁がログの躯体にアクセントを加え、個性的な美をつくり出している。 その姿は、まさに唯一無二。ログハウスの新しい可能性を感じさせてくれる住まいである。

【  Detail  】

≪外観、中庭≫

奥行きが26m ある躯体を、4つのスペースに分けている。これだけ長い壁で、太さが異なるログ材を積んで横方向のきれいな直線を出すには、高い技術が必要だ
左/このスペースには上の階の渡り廊下があるだけで屋根がなく開放感があるが、高いログ壁に囲まれているので、プライベートはしっかり確保されている 右/デッキの下を池にするアイデアは、施行途中に雨が降って水がたまっているのを見て思いついたそう。中央のテーブルにあけられた穴からエサを落とすと、たくさんのコイが集まってくる
中庭の壁には大きな丸い窓があり、そこから青く美しい海を望むことができる

≪応接室≫

建物の東側にある応接室。レンガ敷きの床で靴を履いたまま入れるようになっている。ランダムに吊り下げられた照明がおしゃれだ
左/大きな窓の向こうに中庭が見える。応接室は仕事でも使用するため、中庭によって居住空間と区切られている 右/直径が240㎝ある丸い窓は、ログ壁を途中まで積んだところで溝に落とし込み、さらに上にログ壁を積んでいる。すき間はしっかりシーリングして埋めている
奥さまは自宅でワインショップを営んでおり、定期的に試飲会を開催。この応接室を会場にすることも多いので、キッチンを設置している

≪ショップスペース≫

上・下/1階は、ワイン業界で30年以上のキャリアを持つ奥さまが開いたワインショップ「ワイン・ラバーズ・ファクトリー」。適温の14℃を保つワインセラーや、くつろいでワインを楽しめるスペースもある

≪ダイニングキッチン≫

ふだん食事をする2階のダイニングキッチン。サーフボードをイメージしたテーブルは、サイズ感やデザインを合わせるため、この場に大きな板を置いてカットして作った

≪リビング≫

リビングを含む3階全体は枠組み壁工法で作られており、一般的なログハウスと違って柱や梁がない。また、天井全面がベルックスの天窓という斬新な設計で、全体として現代的な雰囲気になっている
あらわしにした断熱材は、産業用大麻を使用したテルモハンフというもので、サステナブルな建材として注目度が高まっている素材。T 邸はほかの部分も自然素材が中心で、新建材をほとんど使っていない
リビングから中庭を見下ろした様子
中庭の上、リビングと東側の寝室をつなぐ渡り廊下は、ガラス張りになっていて見晴らし抜群。まるで空中を歩いているような感覚になる

≪寝室≫

寝室も天井はガラス張り。朝はその上を歩く鳥の足音や鳴き声が聞こえるそうで、奥さまは「以前より早く起きられるようになりました」と笑う。
窓の外側には広さ9㎡ほどのバルコニーがある。屋根つきなので、天候を気にせず外の空気を感じながらくつろぐことができる

≪個室≫

2階の西側と3階の西側にはそれぞれ個室がある。これは3階の個室で、天井から光が差し込んで明るく、とても居心地がいい空間になっている
2階の個室からの眺めも見事。壁の高さが4mと高いので、非常に開放的がある。ログ材はレッドシーダーだ
両個室にはシャワーとトイレを設けている。清潔感ある白い壁とゴツゴツした丸太の壁のコントラストがおもしろい

【DATA】 ●使用目的/自宅兼店舗 ●家族構成/夫婦 ●工期/2022年3月~2023年3月 ●構造/丸太組み構法(バタフライサドルノッチ)、一部鉄筋コンクリート造、地 上3階 ●使用ログ材/レッドシーダー(φ30cm) ●外壁の塗料/Wood Long Eco ●内壁の塗料/無塗装 ● 基礎/布基礎 ●床面積/1F 82.27㎡(24.89 坪)、2F 87.60 ㎡(26.50 坪)、3F 96.70 ㎡(29.25 坪)、延床面積266.57 ㎡(80.64 坪) ●輸入・施工/(株)JIN  https://jin-inc.co.jp/ TEL0267-31-6869

取材・文/原 太一、写真/関根おさむ、細田健太郎