これぞ都会のオアシス? 唯一無二、世界にひとつの超個性派ハンドカットログ

「こんなログハウスを建てたい」と夢をふくらませるのは楽しいものだ。ゼロから考えるのもいいが、参考例があれば発想がふくらんでベストな形が生まれやすくなる。自分なりにアレンジするのももちろんアリだ。日々の暮らしを幸せにしてくれる、「まねしたくなる秀逸アイデア」を紹介しよう。

東京都・Sさん

設計・輸入・施工/(株)JIN

静かな住宅街に建つS邸。建築中から近所でも話題になった。軒の深さや壁の材料は準防火地域に適応する仕様になっている

自然の形のままの丸太で壁を造るハンドカットログハウスは、個性的なスタイルと迫力から不動の人気を持つ、ログハウスの原点にして王様といえる存在。そんなハンドカットログのなかでも際立つ個性を放つのが、JINが手がけたS邸だ。 まず驚くのが、圧倒的な丸太の太さとワイルドさ。太いところでは直径1mもあろうかという丸太は、樹皮こそむいてあるものの表面には自然そのままの凹凸や切り落とした枝のつけ根が荒々しく残っている。 もうひとつの驚きが、ここが東京23区内だということだ。準防火地域という規制や、細い一方通行の道路からの搬入などの高いハードルをクリアして完成した一棟なのだ。

玄関ホールとリビングの間は、ログ壁を正円にくりぬいた。上部の丸太が残っているのは、Sさんの「なるべくログを切りたくない」という希望から

使用しているのはアラスカ産のウエスタンレッドシーダー。この家のようなワイルドでラスティックなスタイルのログづくりを続けるJINの小池さんが、長年かけて集めた丸太だ。 「このようなログは常に手に入るわけではありません。日本に入ったときに購入しておき、ストックしてきました」と小池さん。ストック期間のおかげで丸太の乾燥も進み、家づくりに適した状態となったそう。

丸いカットがふたつ並んだリビングダイニング。一本一本の丸太に味があり、見ているだけで楽しい。床はオーク、天井はレッドシーダーを採用
こうした場合、壁を床側までカットすることが多いが、下段を残すことで遊び心のある開口部が完成した。滑りやすいので注意が必要

「Sさんは、このログをとても大切にしてくれて、建築中も『なるべくログを残したいから、これ以上切らないで』と、当初の予定より開口部を小さくしたところもあるんです」(小池さん)。 「最初は、何これ? これが家なの? と驚きました。でも完成してみたら、何かいい! 今ではとても気に入っています」というのは奥さま。Sさんも「いろいろな表情があり、見ていて飽きないんです。一見、奇抜な家にも思えますが、自然素材のおかげか居心地が良く、とてもリラックスできるんです」と、都会でのログライフを満喫している。

【  Detail  】

≪玄関≫

玄関ホールは乱形の石張りの床。キッチンとの間の壁を抜いて、太い丸太をカウンターにした。左手前に見えるのは階段
分厚い板を使った迫力のある階段。ログ壁のインパクトに負けないよう、丸太の耳を残した踏み板が存在感抜群
玄関ホールの梁。一般にはハネられてしまうような変形した丸太を、ここでは目立つ位置に配置して見せ場のひとつに

≪リビングダイニング≫

1階のリビングダイニング。構造上、大きな開口部を設けにくいハンドカットだが、構造計算をしたうえで、庭に面した大きな窓を実現させた
「整いすぎていない、荒っぽくて危うい感じがクセになるのかな? 木目や節に表情があり、見るたびに新しい発見があります」とSさん

≪キッチン≫

シェフを招いてパーティをすることもあるS邸のキッチンは、本格的なプロ仕様。木とステンレス、床の黒いタイルの組み合わせがかっこいい
上・下/オール電化を採用しつつ、キッチンはガスの火力にこだわったため、プロパンガスを併用。レンジフードや吊り戸棚は木製のオリジナル

≪2F個室≫

上・下/小上がりの和室とフローリングの洋室の間は、ひと続きにも使えるし、引き戸を閉めれば、それぞれ独立した個室にもなる
上・下/造りつけデスクのある2階の個室。壁の仕上げは、サイズや加工法の違う2種類のレッドシーダー材を使用して表情豊かに
在来工法の2階も、直径1m超えの柱や壁に張りつけたスライス丸太があることで、1階に負けない迫力がある

≪サニタリー≫

左/特にこだわったというバスルームは、黒い石のタイルに木の浴槽、木の壁を組み合わせ。パウダールームと一体型で天窓もあるため、開放感がある 右/浴室とひと続きのホテルライクなパウダールーム。壁には腐りにくいレッドシーダーを使った
浴室の隣にはサウナを設置。都市部の家ながら、芯からリラックスできる家になった

【DATA】 ●使用目的/自宅 ●家族構成/夫婦 ●使用ログ材/ウエスタンレッドシーダー(φ約50cm) ●ストーブ/ダッチウエストジャパン「クアドラファイア」 ●敷地面積/ 206.35㎡(62.42 坪) ●床面積/ 1F 76.53㎡(23.15坪)、2F 79.50㎡(24.04 坪)、延床面積 156.03㎡(47.19 坪)

取材・文/たむらけいこ、写真/関根おさむ