地元産の木材を積極的に使った、地域に根差した家づくり

ログハウスは建てて終わりではなく、生活の楽しみを受けとめ、ふくらませる大きな器のようなもの。家族と一緒に歴史を刻み、より魅力的になってく。オーナーによってそれぞれ異なる好みを反映して生まれた魅力的な住まいと、その暮らしぶりを紹介しよう。

福島県・松澤さん

設計/㈱はりゅうウッドスタジオ 施工/㈱丸惣建設[元請: ㈱芳賀沼製作]

スギ角材を縦に並べてつないだ新システムの家

玄関ホールから見る家の全体像。細長い長方形を大胆に縦割りし、右側がダイニングとリビング、左側にキッチンほか水まわりなどを配した。ワンルームの空間は視線が行き届き、子育てがしやすいメリットも

松澤さんのマイホームには、興味深いことがいくつもある。まず室内に採用された縦方向のスギ材の壁。これは板張りではなく、10㎝ほどのスギの角材を専用ビスで固定した分厚い無垢材の壁「パネルログ」。木の断熱性や調湿性などを得られ、ログハウスのような法的な間取りの制約を受けない画期的なシステム壁だ。

パネルログとは、芳賀沼製作が開発した耐力壁のシステム。従来のログハウス同様に無垢材の分厚い壁の恩恵を受けつつも、在来構法なので間取りの制約が少ないのがポイント。角材同士は独自の専用ビスで固定しており、いざとなったら解体することもできる、持続可能な壁としても注目だ

ここ南会津の森林資源の普及に携わるご主人は、自宅にも町産材、県産材を積極的に使いたいと考えていた。そこで取り入れたのが、設計や施工の業者や木材の供給元である材木店と、それぞれに契約を結ぶ地域工事業者分離発注方式での建築だ。「この家の登り梁は町産のスギですが、材木屋さんが『今山に入っているから、ちょうどいい木を伐ってくるよ』って、スケジュールギリギリで用意してくれた木です」というほか、堅木の床を望んでいたご主人に「今手に入るのはクリとカバ」と提案してくれるなど、施主としての仕事量は増えるものの、細部にまでかかわれ、こだわれる、ワクワクするような家づくりが進んだ。前述のパネルログも、南会津にて製材業を営む芳賀沼製作が開発した構法で、その点でも松澤さんの家づくりにぴったりだった。

左/床の段差を生かした収納兼ベンチは、「収納型のベンチが欲しい」という要望を反映したもの。幅広の床はカバ、縦方向に木が並ぶ壁やブランコを取りつけた梁はスギ。すべて県産材だ 右/細長いリビングの一部はステージ状に床を高くしてある。単調になりがちな広いワンルームに高低差を取り入れることで空間にメリハリが生まれ、壁がないのに別室のような使い方も可能
無垢材に囲まれ、気持ちのいい空気に満たされるリビング。左右の壁はスギの角材を縦に並べたパネルログだ

もうひとつ注目したいのは、この家の間取りだ。長方形の敷地に合わせた細長い家を縦に真っぷたつに分けた大胆な配置だ。「四角い部屋を並べるのではない、思いもよらないプランが出てきてびっくりしたけれど、さすがプロのアイデアだと思いました。だから、どんな暮らしをしたいかを伝えただけで、設計は『はりゅうウッドスタジオ』の齋藤さんにおまかせしました」と振り返る奥さま。そのうえで、タイルやキッチン、建具や設備機器、収納スペースの配置などは自ら吟味しセレクト。建築に携わるすべての人の得意が合体したら、想像以上に素敵で使いやすく、満足度の高い家が完成した。 地域に根差したオリジナルな家づくりの好例といえる松澤邸。これから目指したいのは、こんな家づくりかもしれない。

【  Detail  】

≪玄関≫

広い玄関ホールは収納スペースやちょっとした作業場としても使える。頑丈な壁には直接ボルトを打って自転車を見せながら収納

≪ダイニングキッチン≫

この家の建築は、施主である松澤さんと、設計から施工までにかかわる業者とがそれぞれに契約を結ぶ、分離発注方式が採用されている
奥さまが選んだシステムキッチンが、リビングとキッチンを仕切るような形で配されている

≪サニタリー≫

家を縦半分に割ったもう一方は、玄関側(写真奥)からキッチン、サニタリー、家事室+クローゼット、主寝室のプライベート空間を配置
洗面・脱衣室(写真右)に隣接された家事室。洗濯物を干したりたたんだり、アイロンをかけたりする場所。リビングからも出入り可能
家事室の半分は家族共用のウォーク・スルー・クローゼット。寝室、家事室と隣接させた、使い勝手のいい家事動線。プライバシーの確保もバッチリだ

≪寝室≫

家のいちばん奥にあるのが主寝室。屋根までの吹き抜けなので、面積以上に広々と感じられる。寝室なので窓はあえて小さくして、ちょっと閉じた感じに
木の壁の窓を細くしたので、高い位置に採光のためのフィックス窓を並べた。寝ながら空が眺められる

≪階段≫

左/壁の一部は全面に有孔ボードを張り、フックで帽子やバッグを見せる収納にした 右/玄関ホールの一角に2階への階段を設けた。ここはキッチンと隣接しているので、外から直接キッチンへも向かえる

≪2階≫

上・下/平屋のようにも見えるが、片流れ屋根の高いほうには造りつけデスクのある勉強・仕事スペースを作った。背の高いご主人は梁に頭をぶつけることもしばしばだが、落ち着いて仕事ができる場所となった。将来は娘さんの部屋に?

≪外観≫

ここは冬には1m近い積雪のある地域。片流れ屋根に積もった雪が滑り落ちても建物に影響しないよう、軒を2.1m と深く設けてある

【DATA】 ●使用目的/自宅 ●家族構成/夫婦+子ども1 人 ●主要構造材/スギ ●敷地面積/ 430.26㎡(130.15 坪) ●床面積/ 1F 109.37㎡(33.08 坪)、2F 32.69㎡(9.89 坪)、延床面積 142.06㎡(42.97 坪)

取材・文/たむらけいこ、写真/関根おさむ