ゲストを招く工夫が満載。人が自然と集まる「縁側」のある家

木に囲まれた空間は、ナチュラル雰囲気はもちろん、温度や湿度を快適に保ったり素足で歩くと気持ち良かったりと、さまざまな恩恵をもたらしてくれる。木をふんだんに使いながらもモダンにまとめた、魅力的な住まいを紹介しよう。

福島県・Tさん

設計・施工/㈱芳賀沼製作

開口部をたっぷり取った光と風が舞うウッディハウス

里山の自然豊かな景色によくなじむ、木肌が美しいパネルログの外観。道路側からゆるやかなスロープでつながり、見晴らしがいい

物理研究者であったTさんは、原発事故被害地域再生への強い思いを持ち、2011年に「ふくしま再生の会」を立ち上げて以来、精力的に活動を続けている。飯舘村が避難解除されたのを機に、東京から同村への移住を決意した。ログハウスで仮設住宅を建てていた芳賀沼製作を訪ねたところ、代表の芳賀沼伸さんと意気投合。間伐材を利用したパネルログを紹介され、地域の活性化や日本の林業再生にもつながる合理的な思想に共感し、建築を依頼することに。パネルログは、無垢の角材を縦に並べてビス打ちし、パネル化したものだ。軸組構法で建築するため、ログハウスのように木のぬくもりを漂わせながら、間取りや開口部の自由度が高い「おもしろい家」になるだろうという期待度も高かった。

上2点/パネルログは無垢の角材を縦に並べてビス打ちし、パネル化したもの。工場で図面通りのサイズにパネル加工され、施工現場で組み上げていくため、施工期間を短くでき、コストカットできるのがメリット。また、セトリングが発生しないため、施工やメンテナンスが容易という利点もある。外壁としてはもちろん、内装の間仕切り壁や床材としても利用でき、インテリアに統一感が出せる
LDKの中に埋め込む形のテラスは、強い日差しや雨にさらされることがなく快適。夏は風通しが良くて涼しく、冬は陽だまりとなる

間取りには、村に戻った人々が気軽に立ち寄れる「縁側」の空間が欲しいと希望した。1階LDKを凹形にし、くぼみにリビングからフラットにつながる広いテラスを配置。囲われているうえに屋根があるため風雨をしのげ、夏は涼しく居心地のいい空間となった。

玄関のたたきは広く取り、薪が置けるようにした。山歩きや農作業のためのアウトウエアや長靴などの脱ぎ着がしやすいのもいい
リビングからテラスにフラットにつながり、出入りがしやすい。パネルログでは、凹部を取れ入れた設計も容易に実現できる

また、客人が多いことを見越して玄関ホールを広く取り、LDKや客間のパブリックスペースと個室やサニタリーのプライベートスペースを完全分離したのもこだわりだった。LDKは、客人が集まれるようにオープンなワンルームとし、吹き抜けのある大空間としている。一方のプライベートスペースでは、主寝室の隣に設けたトイレやバスルームは身支度の動線が良く、吊り引き戸を多くして床をフラットにしたバリアフリー設計は、住んでみて機能的だと感じたそうだ。また、セトリングの心配がなく、開口部を広く取れたのも良かったという。

パネルログは開口部を大きく取ることが可能。吹き抜けのリビングに大型の高窓を設けて明るくしたため、開放感は抜群だ

「娘の提案で、リビングに高窓を設けたところ、この家のハイライトになりました」とTさん。ダイニングから高窓ごしに見える雲の流れや変わりゆく空の色が心地良い癒しを与えてくれる。「移住してからは、庭や菜園の手入れのほか、里山の景色を通して四季や時間の移ろいをはっきり感じるようになりました」と、ご夫妻ともに顔をほころばせた。

【  Detail  】

≪LDK≫

L型のワンルームにまとめたLDK。キッチンはオープンな対面式だが、手元が見えないようにカウンターを高めに設定した
吹き抜けのリビングは、2階のフリースペースから見下ろせる造り。LDKから2階に声が届き、コミュニケーションしやすい
パネルログ構法は高気密・高断熱を実現するため、冬は薪ストーブ1 台で全部屋があたたまる。ガラスの向こうで揺らぐ炎が美しい
左がダイニング、右隣がキッチンで配膳やあと片づけがスムーズ。L型のLDKは空間を共有しながらも各々の時間を過ごせる

≪2Fフリースペース≫

2階のフリースペースは客人が宿泊できるようにあけてある。窓から光が差し込み、大変明るい。手すりの下はリビングにつながる
2階の個室は娘さんが使用。天井と壁はパネルログで統一した。床のパネルログは狂いがないため、仕上げ材をじかに張っている。木材の調湿効果で室内の空気はさわやか。木の香りがふんわり漂う

≪1F書斎≫

税理士の仕事をテレワークでこなす、奥さまの書斎。日中は2 面の窓から日差しが入り、大変明るく風通しもいい
1階に設けたご主人の書斎も窓を大きく設けて、里山の景色が楽しめるようにした。壁面には造りつけで大容量の書棚を設置

≪主寝室≫

主寝室の隣にトイレと浴室があり、身支度の動線がスムーズで使い勝手がいい。浴室は2ウェイでまわれる動線で、ゲストも使える

【DATE】 ●使用目的/自宅●家族構成/夫婦 ●ストーブ/ヨツール「F400」 ●敷地面積/ 562㎡(170.3 坪) ●床面積/ 1F 115.11㎡(34.88 坪)、2F 35.19㎡(10.66 坪)、延床面積 150.30㎡(45.55 坪)

取材・文/長田節子、写真/松井 進